不思議な体験 -落ちる紙袋- Mysterious experience

夜中、恩師の一人であるデブラとエンバーミングをしている時のエピソード。

突然、電話が鳴ったのは夕食をすませたころ。当時、属していたエンバーミング・センターの管理職の方から連絡があって現地にむかうことになりました。故人は若い男性で交通事故による事故死だと聞かされました。また夜間では常駐する通訳の方が帰宅していることもあって駆り出されることに。

エンバーミング・ルームに入ると既にデブラの姿が。しかし、何やら不機嫌な様子。訳を聴いてみると、ご遺体の到着までに時間がかかるとのことでした。聞いた話では、既にエンバーミング・ルームに運ばれていると。どこかで連絡のやり取りがおかしなことになってしまったようです。そんな話を聞いているうちに、ご遺体が到着しました。しかし、故人を覆うシーツをめくると全裸の上にドライアイスがびっしりのっていました。特に胸部や腹部がカチカチに凍った状態で、とても手が付けれません。警察からの検案書が下りるまで時間を要していたようです。それをみたデブラが発狂状態に。とにかく流水をあて解凍を待ちました。待つこと約3時間。ようやく始められたころには23時を回っていました。

始められたのはよかったのですが、デブラは怒ったまま。担当者に向けた汚い言葉を吐きながら進める手にいら立ちが表れていました。ただ、担当者への言葉とはいえ故人を前に居た堪れない気持ちでデブラをサポートしていたことを覚えています。そう思った矢先、処置をしていた後ろで「バサッ」と何かが落ちる音がしました。振り返ると、故人の衣服が入った紙袋でした。無造作に置いていったのだろうとその時は気にも留めず、もとの場所へ戻しました。今度は落ちないように。ところが、止むことの無い罵声に反応するかのように再び「バサッ」と。自身で落ちないようにしっかり戻していたはずだったので、背筋がゾッとしました。全身の毛が逆立ったような感触さえあったほどです。

この時ばかりはデブラも驚いた様子。「3回目はないよ」と指摘すると、さすがのデブラも反省した様子で「OK!」。それ以降、紙袋が落ちることはありませんでした。処置を終えたあと、二人で不思議な体験を振り返りました。どう考えても、デブラの罵声によるものだと。しかし、彼女は「英語だから分からないはず(笑)」と。「バカなことを!」と思いながら「汚い言葉を吐いた時の感情だよ」と伝えると腑に落ちた様子で苦笑い。ともあれ、夜通し立ち続けていたせいで疲れはピークに。とにかく帰ることにしました。

車に乗る頃には、薄暗いものの空が青みがかった様子。運転中、紙袋が落ちた後に何度も確かめながらもとの位置にもどした感触を思い出だしては、どうしても起こりえない現象に困惑するばかり。見てたんだろうな…、怒ってたんだなあ…と思わざるを得ない体験でした。それ以来、デブラとエンバーミングをするとき、彼女はマスクの上から手をあて、「汚い言葉を吐かないよ」という合図をみせてから仕事にかかるようになりました。

密室だからこそ、倫理的な行動や気持ちの置き方が大切なんだと改めて実感させられた経験でした。

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